次元総括管理局より ―Lasting―

 

 それから、数年の月日が流れて。

「あーちゃん、眉間に皺が寄ってるよ。可愛い顔が台無し」

「黙れ」

「緊張しない。いつものあーちゃんらしく、笑顔笑顔。その笑顔で議員の大半は落としたも同然だよ」

 意味が分からない。ずかずかと本部の廊下を歩くアルトの背後を今日もシスが付いて歩いている。

 知らない間に特級監査官まで上り詰め、挙句ランクSパスまで手に入れたシスが、若干憎らしい。アルトは相も変わらず上級でランクAだ。

「………………」

 たどり着いた部屋の前で、睨むように扉を見つめる。

 そして、視線を落とした。自分の羽織る青のケープと、ラペルピンへ。

 青のケープに、白の虎が彫り込まれたラペルピン……水虎の正装。

 今日が、アルトの水虎としての初会議だった。緊張しないわけもない。アルトは微かに震えていた。

 ふと、シスの手がアルトの頭を優しく撫でる。慣れたとはいえ、くすぐったい想いを殺し、アルトが振り向いて、視線を向ける。

 相も変わらず、何を考えているのか予想できない笑みを向けるシスがいる。

「僕がついてるから。あーちゃんは、あーちゃんのしたいことを貫けばいい。くれぐれも、忘れちゃダメだよ。あーちゃんの、目標を」

「俺は……」

 迷う事なんてない。だから、アルトは笑みを見せた。

「……俺が守りたいものを守るために、ここで戦ってくる」

「それでこそ、あーちゃんだよ」

 頷いて、アルトは再び正面を見やる。ここから先は一人だ。

 どんなにつらくても、踏み込んだこの場所はたった一人で戦わなければならない戦場で。

 重厚な扉が目の前にある。開くのを躊躇いたくなるような、沈黙の壁。滲むのは孤独と恐怖。

 自分の弱さが、ここにはある。

 それを振り払うために、アルトは言う。

「……いって、きます」

「いってらっしゃい、あーちゃん」

 その声と、背負った想いで、アルトは一歩を踏み出した。

 世界は、痛みで満ちていて。

 そんな世界を、少しでも優しさで彩ることが今のアルトの願いであり……覚悟だった。

 

 

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